2階の沙織の部屋まで来ると。
『沙織、開けるよ』
少し待ってみたけど沙織からの返事が無い、いつもなら沙織の元気な声が返ってくるはずなのに。
『沙織開けるからね』
そう言うと莉杞はドアを開ける、同時に肌に纏わり付く様な生暖かい空気が流れ出てくる。
部屋に入ると沙織はベッドから体を起こしてこちらを見ていた。
いや、本当は見ていなかったのかも知れない。
『沙織、大丈夫?』
不安を感じ莉杞が声をかけると。
『あ、莉杞。ちょっと体が重くて・・・だけど大丈夫だよ』
まるで莉杞を探してるかの様に視線が定まらない。
『夢を・・・』
『え?』
不意に沙織が喋り始める。
『夢を見たの』
沙織はひと呼吸して続けた。
『昨日ね、夜中に合せ鏡をしたの。だけどその時は何も起こらなかったんだ、その時は・・・』
かろうじて意識を保ってる、そんな感じに莉杞には思えた。
『やっぱり迷信かと思ったの・・・、だけどね・・・』
虚ろだった目線が莉杞の目を食い入る様に見つめる、その目は奈落の底まで落ちて行きそうな闇そのもののようだった。

ごくり

莉杞は見つめられて、息苦しさを感じ生唾を飲み込む。
その音が部屋中に鳴り響いたんじゃないかと思えるぐらいに大きく聞こえた。
『手が真っ赤に染まってたの・・・息が荒くて今にも心臓が飛び出すんじゃないかって思えるくらい』
沙織の体が恐怖のあまり少し震えてる様に見えた、いったい何があったんだろう?莉杞は沙織の話が終わるまで静に聞く事にした。
『自分じゃない自分がそこに居たの、今の私とはまるで真逆な感じの自分が・・・』
沙織は自分の手を見つめながら続ける。
『この手が真っ赤に染まってるんだけど、そう・・・あれは・・・恐怖じゃない』
『え?』
『まるで心から歓喜してる・・・そんな感じだったの』
沙織の虚ろな目がもう一度莉杞に向けられた。
『最初はね・・・夢だと思うつもりだったの』
『思うつもり、だった?』
沙織の言動に疑問を感じ、聞き返そうとすると。
『生々しかったんだ、夢にしてはリアル過ぎたの』
壊れかけてる?莉杞は不安になり沙織を抱きしめながら。
『沙織、大丈夫だから、それは夢だよ。ただちょっと怖い夢を見ただけだよ。だから今日はゆっくり休みな。明日学校に行く時に迎えにくるからね』
ゆっくりと沙織をベットに寝かせ、沙織が眠りにつくまで側に居る事にした。
よほど怖い夢だったんだろう、合せ鏡をした事で精神的に張り詰めた所もあったのかも知れない。
そんな事が重なり参ってしまったのだろうと。
莉子は眠るまで本を読聞かせる母親の様に、優しく今まで一緒に遊んだ事など楽しかった事を話ながら沙織が眠るのを見とどける。
沙織が眠りについた後、莉杞はそっとその場を後にした。